この記事でわかること
- 在庫の評価額が税金に直結する仕組み
- デフォルトの最終仕入原価法の弱点
- 青色申告者が選べる原価法と低価法の違い
- 不良在庫を経費化して節税する低価法の仕組み
- 3月15日までの変更承認申請とデメリット3点
公的情報源: 国税庁 No.2100 減価償却のあらまし/No.2090 新たに事業を始めたとき(2026年6月閲覧)
結論を先に書きます
物販や製造で在庫を抱える個人事業主は、棚卸資産の評価方法を「低価法」に変える と、値下がりした在庫の損失を計上して節税できる可能性があります。多くの事業者は開業時に自動設定される 最終仕入原価法 のまま放置していますが、これは市場価値が下がった在庫も高い金額で計上してしまいます。低価法なら 「仕入れた値段」と「時価」を比べて安い方で評価 でき、「損をしているのに税金まで取られる」事態を防げます。変更には 3月15日まで の申請が必要です。
- 期末在庫の評価額が低いほど売上原価が増え、利益が圧縮され、税金が下がる
- デフォルトの最終仕入原価法は値下がり在庫も高く評価してしまう
- 低価法=原価と時価の低い方で評価できる納税者に有利なルール
- 変更は適用したい年の3月15日までに承認申請が必要
棚卸資産の評価方法とは?税金が決まる仕組み
事業の利益(所得)は 売上総利益 = 売上高 − 売上原価 で求められます。この売上原価は次の式で計算されます。
売上原価 = 期首商品棚卸高 + 当期商品仕入高 − 期末商品棚卸高
ポイントは、最後にある「期末商品棚卸高(=在庫の金額)」を引いている点です。
- 期末在庫の評価額が高い → 売上原価が安くなる → 利益が増えて税金が高くなる
- 期末在庫の評価額が低い → 売上原価が高くなる → 利益が減って税金が安くなる
つまり、売れ残った在庫を「いくらで評価するか」で支払う税金が変わります。
デフォルトは「最終仕入原価法」
開業時に「棚卸資産の評価方法の届出書」を提出していなければ、自動的に 「最終仕入原価法(原価法の一種)」 が採用されます。これは「一番最後に仕入れた単価 × 在庫数」で計算する方法です。計算が楽な一方、実際の価値が下がった商品も、仕入れた時の高い金額で計上 しなければならない弱点があります。
青色申告者が選べる「原価法」と「低価法」
青色申告者は届出を出すことで、原価法と低価法の2つの枠組みから評価方法を選べます。
1. 原価法:取得コストに基づく評価
商品を仕入れた時の価格(取得原価)に基づいて評価する方法です。市場価格が上下しても買った時の値段をベースにします。さらに細かい分類があります。
| 手法名 | 特徴 |
|---|---|
| 最終仕入原価法 | 期末に最も近い日に仕入れた単価で計算(法定評価方法) |
| 個別法 | 個々の商品ごとに実際の仕入原価で計算(宝石・不動産など) |
| 先入先出法 | 先に仕入れたものから順に売れると仮定して計算 |
| 総平均法 | 期首在庫と期中仕入の総額を総数量で割って平均単価を出す |
これらは計算ルールが異なるだけで、「買った時の値段」を基準にする点は共通です。
2. 低価法:在庫の値下がりを反映できる
原価法で評価した価額と、その年の12月31日時点の時価(正味売却価額)を比較して、いずれか低い方の金額で評価する方法。
つまり 「仕入れた時の値段」と「今の時価」を比べて安い方を使える という、納税者に有利なルールです。
なぜ「低価法」に変えるべきか|メリット
メリット1:不良在庫を経費化して節税できる
アパレル・ガジェット・季節商品などは売れ残り(死に筋商品)が発生します。1万円で仕入れたが今は3,000円でも売れるか怪しい、というケースです。
- 原価法:売れる見込みがなくても帳簿上は「1万円の資産」。架空の利益に税金がかかり続ける
- 低価法:在庫評価を3,000円に下げられる。差額7,000円が資産の目減りとして処理され、売上原価が増え利益が圧縮され税金が安くなる
「損をしているのに税金まで取られる」事態を防げる のが低価法の強みです。
メリット2:決算が実態に合う
在庫の価値を現実に合わせることで、決算書が実態に近くなります。無理に高い資産価値を計上しないため、手元のキャッシュの動きと納税額のバランスが取れ、資金繰りの見通しが立ちやすくなります。
低価法への変更手続きと注意点
今日から勝手に変えられるわけではなく、税務署への手続きが必要です。
現在の評価方法(多くは最終仕入原価法)から低価法へ変更するには、「所得税の棚卸資産の評価方法の変更承認申請書」 を所轄の税務署へ提出します。
変更しようとする年の3月15日まで。令和7年分から低価法を適用したいなら、2026年3月15日までに申請書を提出している必要があります。12月の決算時期になってからでは手遅れです。
低価法のデメリット・注意点3つ
- 時価の証明が必要:「売れないから」と適当に下げることはできない。正味売却価額を証明する資料(競合の販売価格・値下げ履歴など)の保存が必要
- 経理の手間が増える:期末ごとに全商品の「原価」と「時価」を比較するため、棚卸作業の負担が増える
- 一度変えると3年は戻せない:特別な事情がない限り、変更した評価方法は3年間変更できない
よくある質問
Q1. 低価法にすると必ず税金が安くなりますか?
在庫の時価が原価より下がっている場合に評価額を下げられ、結果として税金が安くなります。値下がりがない在庫では効果はありません。トレンドの移り変わりが早い商品を多く抱える事業ほど効果が出やすい方法です。
Q2. 届出をしていない場合、今はどの評価方法ですか?
開業時に評価方法の届出書を出していなければ、法定の「最終仕入原価法」が適用されています。値下がり在庫を高く評価してしまうため、在庫リスクが大きい事業は低価法への変更を検討する価値があります。
Q3. 低価法の「時価」はどう決めますか?
正味売却価額(売却見込額から販売経費等を差し引いた金額)を客観的な資料で決めます。競合の販売価格や実際の値下げ履歴などを保存しておくと、税務調査でも説明できます。
Q4. 変更の申請はいつまでにすればよいですか?
適用したい年の3月15日までに「棚卸資産の評価方法の変更承認申請書」を所轄の税務署へ提出します。年末になってから当年分に変更することはできません。
まとめ|在庫リスクがあるなら低価法を検討
- 在庫の評価額が高いと税金も高くなる仕組み
- デフォルトの原価法は値下がり在庫も高く評価してしまう
- 低価法なら時価の下落を損失として計上でき節税になる
- 変更は3月15日までに税務署へ申請が必要。3年は戻せない点に注意
まずは去年の青色申告決算書の「棚卸資産」欄を確認し、買った値段より価値が下がっている在庫がどれくらいあるか試算してみましょう。金額が大きいなら、来年の3月15日までに変更承認申請書を出す準備を。税理士に相談する際は「在庫の評価損を計上したいので低価法への変更を検討したい」と伝えるとスムーズです。
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免責事項
※本記事は2026年6月時点の公開情報・国税庁公式をもとにした整理です。税制・評価方法の取扱いは改正されることがあり、低価法の適用可否・時価の算定は個別事情で異なります。具体的な税務判断は税理士または所轄の税務署へご相談ください。

