個人事業主の引っ越し費用は、事務所や店舗だけを移すなら全額が必要経費です。自宅兼事務所は仕事に使う割合だけ、自宅だけの引っ越しは家事費で経費になりません(所得税法45条・施行令96条)。礼金は20万円以上で繰延資産になり、開業前の事務所の引っ越しは開業費として5年で償却するか、黒字の年にまとめて落とせます。
この記事でわかること
- 引っ越し費用が経費になる3パターンの線引き(所得税法37条・45条・施行令96条・通達45-2)
- 引越し業者代・原状回復費・違約金・二重家賃・不用品処分など13費目の科目と按分
- 礼金・権利金が20万円以上なら繰延資産になる根拠と、償却期間・月割り計算・判定単位
- 開業前の引っ越しが開業費になる範囲と、自宅の引っ越しが入らない理由
- 按分・繰延資産・開業費・敷金精算の仕訳4本
- 引っ越し後の税務署への届出(納税地の異動は確定申告書で足りる・事務所移転は開業届の様式・給与支払事務所は1か月以内)
公的情報源: 国税庁タックスアンサー No.2210 必要経費の知識/No.2091 個人事業者の納税地等に異動があった場合の届出関係/No.5460 建物を賃借するための権利金等(法人税)/所得税基本通達45-1・45-2/所得税基本通達2-27/所得税基本通達50-1〜50-7/所得税法16・37・45・50・229条(e-Gov)/所得税法施行令7・96・137・139条の2(e-Gov)/国税庁 A1-5 個人事業の開業届出・廃業届出等手続/国税庁 A1-6 納税地の異動又は変更に関する手続/国税庁「納税地の特例等に関する手続の変更について」(令和4年12月)(2026年9月閲覧。改正されるため最新は各公式でご確認ください)
引越し業者の領収書を撮って科目と事業割合を選べば、雑費と事業主貸への振り分けは終わります。礼金の繰延資産や開業費の償却も固定資産台帳に登録するだけで、年末の償却仕訳が自動で入ります。
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結論を先に書きます
個人事業主の引っ越し費用は、どこを移したかで経費の範囲が決まります。事務所や店舗だけの移転なら全額、自宅兼事務所なら仕事に使う割合だけが経費です。自宅だけの引っ越しは、仕事と無関係の家事費になります。
金額の大きい礼金と開業前の引っ越しだけは、支払った年に全額落とせません。礼金は20万円以上で繰延資産、開業前の事務所の引っ越しは開業費として、それぞれ年をまたいで償却します。
この記事の要点
- 事務所・店舗だけの移転は全額が必要経費(所得税法37条)。自宅だけの引っ越しは家事費(45条)
- 自宅兼事務所は家賃と同じ按分率で分ける。50%以下でも明らかに区分できれば経費にできる(通達45-2)
- 引越し業者代は雑費、原状回復は修繕費、二重家賃は地代家賃。敷金は資産で経費にならない
- 礼金・権利金は20万円未満なら支払った年の経費、20万円以上は繰延資産(施行令139条の2・7条)。償却期間は5年か賃借期間
- 開業前の事務所の引っ越しは開業費(施行令7条1項1号)。60か月均等か、任意の年にまとめて償却できる
- 引っ越し後の納税地の異動届は不要(2023年1月1日以後)。確定申告書に新住所を書けば足りる
- 事務所の移転は開業・廃業等届出書をその年分の確定申告期限までに、従業員がいれば給与支払事務所の移転届を1か月以内に出す
関連: 個人事業主が経費にできるもの一覧(勘定科目18項目と家事按分)
個人事業主の引っ越し費用が経費になる範囲|事務所・自宅兼事務所・自宅だけの3パターン
個人事業主の引っ越し費用の経費判定とは、移した場所が事業用かどうかで経費に入る範囲を決めることです。金額や引っ越しの理由より先に、「どこを移したか」で答えが分かれます。
所得税法37条と45条:事業のための支出だけが経費になる
必要経費に入るのは、収入を得るために直接要した費用と、業務について生じた費用です(所得税法第37条)。事務所や店舗を移す引っ越しは、業務について生じた費用にそのまま当てはまります。
一方で、家事上の経費とそれに関連する経費は必要経費に入りません(所得税法45条1項1号)。自宅だけを引っ越すのは生活のための支出なので、事業所得の計算に入る余地がありません。
仕事と生活が混ざる支出は「家事関連費」と呼ばれ、業務の遂行上必要な部分を明らかに区分できる場合に、その部分だけが経費になります(所得税法施行令第96条1号)。自宅兼事務所の引っ越しは、この家事関連費の扱いです。
引っ越しの3パターンと経費になる範囲(2026年9月時点)
| 引っ越しのパターン | 経費になる範囲 | 根拠 |
|---|---|---|
| 事務所・店舗だけを移す(自宅は動かない) | 引越し代・退去費用・新契約の費用が全額 | 所得税法37条 |
| 自宅兼事務所を移す | 仕事に使う割合の分だけ | 所得税法45条・施行令96条 |
| 自宅だけを移す(仕事場は別・仕事部屋の区分なし) | 経費にならない(家事費) | 所得税法45条 |
| 事務所を閉じて自宅兼事務所に集約する | 旧事務所の退去費用は全額。新居側は仕事に使う割合 | 37条+45条 |
副業の雑所得でも判定は同じです。施行令96条は不動産所得・事業所得・山林所得・雑所得を対象に書かれているので、副業会社員が自宅兼作業場を引っ越した場合も、仕事の割合だけが雑所得の経費になります。
自宅兼事務所の按分率:家賃と同じ割合を使う
自宅兼事務所の引っ越し代は、家賃の按分に使っている割合をそのまま掛けます。仕事部屋が床面積の20%なら、引越し業者代の20%が経費です。同じ家の中の荷物を運ぶ費用なので、家賃と別の割合を作ると説明が難しくなります。
割合が50%以下でも心配はいりません。業務の遂行上必要な部分が50%を超えるかで「主たる部分」を判定するのが原則ですが、50%以下でも必要な部分を明らかに区分できれば、その部分を必要経費に算入して差し支えないと通達が明記しています(所得税基本通達45-2)。
区分の判定は、業務の内容・経費の内容・家族構成・店舗併用の家屋の利用状況などを総合勘案します(同45-1)。間取り図に仕事部屋を塗った1枚と、引越し業者の見積書があれば、区分の説明として足ります。按分率の決め方と証拠の残し方は自宅家賃の按分基準の記事にまとめてあります。
個人事業主の引っ越し費用が経費になるかを決める順番
- どこを移したか
- 事務所・店舗だけ全額が必要経費所得税法37条。引越し代・退去費用・新契約の費用まで。敷金だけは資産
- 自宅兼事務所仕事に使う割合だけ施行令96条。家賃と同じ按分率。50%以下でも明らかに区分できれば可(通達45-2)
- 自宅だけ家事費(事業主貸)所得税法45条。仕事場が別にある人・仕事部屋を区分していない人の引っ越し
- 開業前の事務所開業費(繰延資産)施行令7条1項1号。支払った年に全額落とすのでなく、開業後に償却する
金額と理由はその後の話。最初の枝は「どこを移したか」だけ
図:個人事業主の引っ越し費用の経費判定は、移した場所が事務所か自宅兼か自宅だけかで最初の枝が分かれる
引っ越しでかかる費目ごとの勘定科目と按分|引越し業者代・退去費用・新居の契約費用
引っ越しは1回の支払いに見えて、中身は10種類以上の費目に分かれます。科目を費目ごとに決めて、按分の有無を最初に固定しておくと、翌年以降も迷いません。
引っ越しの費目・勘定科目・按分の一覧(自宅兼事務所の場合・2026年9月時点)
| 費目 | 勘定科目の例 | 按分 | 扱い・根拠 |
|---|---|---|---|
| 引越し業者の運搬代 | 雑費(荷造運賃でも可) | あり | 支払った年の経費。科目は一度決めたら統一する |
| 段ボール・梱包資材 | 消耗品費 | あり | 支払った年の経費 |
| 不用品の処分・粗大ごみ | 雑費 | あり | 事業用の机や棚の処分は全額 |
| 旧居の原状回復費(敷金から差引) | 修繕費 | あり | 敷金の精算時に計上 |
| 旧居の中途解約違約金 | 雑費または支払手数料 | あり | 事業の都合の移転なら経費 |
| 二重家賃(旧居と新居が重なる月) | 地代家賃 | あり | 移転作業のための重なりは経費 |
| 不動産会社の仲介手数料 | 支払手数料 | あり | 繰延資産にせず支払った年の経費(通達2-27注) |
| 礼金・権利金 | 20万円未満は地代家賃、20万円以上は長期前払費用 | あり | 施行令139条の2・7条。次章で計算 |
| 敷金・保証金(返ってくる分) | 差入保証金(資産) | なし | 経費にならない。返ってこないと決まった分だけ精算時に経費 |
| 保証会社の保証料・火災保険料 | 支払手数料・損害保険料 | あり | 契約期間に対応させる。自宅家賃の記事参照 |
| 鍵交換・エアコン移設・回線工事 | 修繕費・通信費 | あり | 10万円以上の設備を新たに買う場合は資産 |
| 物件の下見・契約に行く交通費 | 旅費交通費 | あり | 事務所探しの移動は経費 |
| 名刺・封筒・ゴム印の住所変更 | 消耗品費 | なし(全額) | 事業でしか使わない支出 |
事務所や店舗だけを移す場合は、上の表の「按分あり」がすべて「全額」に変わります。自宅だけの引っ越しなら、名刺の刷り直しのような事業専用の支出を除いて、全部が事業主貸です。
引越し業者代の科目に決まりはない
引越し業者代を雑費にするか荷造運賃にするかは、所得税法に定めがありません。青色申告決算書の経費欄には空欄の行があり、「引越費用」という科目を自分で作っても問題は起きません。決めた科目を毎年同じにすることのほうが、税務署への説明では効きます。
雑費が年間で大きくなると内訳を聞かれやすいので、引越し代が20万円を超えるような年は、摘要に「事務所移転・○○運輸」と書いて、見積書と一緒に保存しておくと安心です。
敷金と原状回復費は退去のときに動く
敷金は預けているだけのお金なので、払ったときは差入保証金という資産に載せます。退去時に原状回復費として差し引かれた分が、そのとき初めて修繕費になります。自宅兼事務所なら、修繕費にも按分率を掛けてください。
契約のときから返ってこないと決まっている敷金(いわゆる敷引き)は、実質的に礼金と同じ性格です。礼金と合わせて次章の20万円の判定に乗せるのが実務の扱いですが、契約書の書き方で変わるので、税務署に契約書を見せて確認するのが確実です。
礼金・権利金が20万円以上なら繰延資産|償却期間・月割り計算・20万円未満の判定単位
礼金は、建物を借りるために払う権利金として繰延資産に当たります。20万円未満なら支払った年の経費、20万円以上なら償却期間で分けて経費にします。競合の記事はここで止まりますが、実際に決算書へ書くには償却期間と月割りの計算が要ります。
根拠:施行令7条・139条の2と通達50-3
資産を賃借するために支出する権利金・立ちのき料その他の費用で、支出の効果が1年以上に及ぶものは繰延資産です(所得税法施行令第7条1項3号ロ)。建物を賃借するために支出する権利金がこれに含まれ、仲介手数料だけは支払った年の必要経費にできると通達が注記しています(所得税基本通達2-27)。
ただし、この繰延資産のうち支出する金額が20万円未満のものは、支出した年分の必要経費に算入します(施行令139条の2)。礼金15万円なら地代家賃で一括、礼金30万円なら繰延資産という分かれ方です。
償却期間は、建物を賃借するための権利金等で借家権として転売できないものなら5年です。契約の賃借期間が5年未満で、更新のときに再び権利金等の支払いが必要なことが明らかな場合は、その賃借期間になります(所得税基本通達50-3 表3)。2年契約で更新料を払う賃貸なら、償却期間は2年です。
計算式:礼金の額 ÷ 償却期間の月数 × その年の業務月数
その年の償却費は、繰延資産の額を効果の及ぶ期間の月数で割り、その年に業務を行っていた月数を掛けて計算します。支出した年は、支出日からその年の末日までの月数です(施行令137条1項2号)。1か月に満たない端数は1か月に切り上げます(同2項)。
計算例を置きます。自宅兼事務所(按分率20%)で9月1日に2年契約を結び、礼金30万円を事業用口座から払ったケースです。
| 項目 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| ①20万円以上かの判定 | 契約で払った礼金 300,000円 ≧ 200,000円 | 繰延資産 |
| ②事業分の繰延資産 | 300,000 × 20% | 60,000円 |
| ③償却期間 | 2年契約・更新時に更新料あり | 24か月 |
| ④支出年(9〜12月)の償却費 | 60,000 ÷ 24 × 4か月 | 10,000円 |
| ⑤翌年の償却費 | 60,000 ÷ 24 × 12か月 | 30,000円 |
| ⑥3年目の償却費 | 残り 60,000 − 40,000 | 20,000円 |
更新時に更新料を払う契約でなければ償却期間は5年(60か月)になり、④は60,000 ÷ 60 × 4 = 4,000円に下がります。契約書の更新条項を先に読んでから、償却期間を決めてください。
20万円未満の判定は「契約ごとに払った額」
20万円未満かどうかは、建物を借りるための権利金等では契約ごとに支出する金額で判定します(所得税基本通達50-7)。条文は「支出する金額」で書かれているので、按分前に契約で払った額で見るのが素直な読み方です。上の例なら、事業分6万円で判定して一括経費にするのは避けたほうが安全です。
更新料も礼金と同じ権利金等の扱いで、20万円未満なら支払った年の経費、20万円以上なら更新後の期間で償却します。決算書には「減価償却費の計算」欄が繰延資産を含む様式になっているので、礼金の行を作って償却費を書きます。
礼金300,000円・2年契約・9月1日支払い・按分率20%の償却
判定と期間
契約で払った額 300,000円 ≧ 200,000円 → 繰延資産(施行令139条の2)
2年契約・更新時に更新料あり → 償却期間 24か月(通達50-3)
事業分 300,000 × 20% = 60,000円
年ごとの償却費
支出年:60,000 ÷ 24 × 4か月 = 10,000円
翌年:60,000 ÷ 24 × 12か月 = 30,000円
3年目:残り 20,000円で償却が終わる
更新料のない5年契約なら 60か月で割る。支出年は月数を切り上げる(施行令137条2項)
図:礼金の繰延資産は契約で払った額で20万円を判定し、賃借期間または5年の月数で割って支出年から月割りで償却する
礼金を固定資産台帳に「繰延資産・償却期間24か月」で登録しておけば、支出年の月割りも翌年以降の償却仕訳も自動で入ります。更新料や開業費も同じ台帳に載せるだけで決算書の「減価償却費の計算」欄まで転記されるので、個人事業主向けのプランを30日間試してから決められます。
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開業前の引っ越しは開業費になる?|「開業準備のために特別に支出」の範囲と自宅の引っ越し
開業前に事務所や店舗を借りて移った引っ越し代は、開業費として繰延資産に載せ、開業後に償却します。開業前に自宅を引っ越した費用は、原則として家事費で経費になりません。
開業費の定義:資産の取得と前払費用は除かれる
開業費とは、事業を開始するまでの間に開業準備のために特別に支出する費用です(所得税法施行令第7条1項1号)。同じ項の冒頭で、資産の取得に要した金額とされるべき費用と前払費用は除かれています。
この定義に引っ越しの費目を当てると、次のように分かれます。
| 開業前の支出 | 開業費に入るか | 理由 |
|---|---|---|
| 事務所・店舗への引越し業者代 | 入る | 開業準備のために特別に支出した費用 |
| 物件の下見・契約の交通費、不用品処分、名刺の印刷 | 入る | 同上 |
| 仲介手数料 | 入る | 通達2-27注で繰延資産にしない費用。開業前なら開業費に含める |
| 礼金20万円未満 | 入る扱いが一般的 | 開業準備の支出。20万円以上は施行令7条3号の繰延資産として別枠で償却 |
| 敷金・保証金 | 入らない | 返ってくる預け金=資産の取得 |
| 10万円以上の机・パソコン・エアコン | 入らない | 資産の取得に要した金額。減価償却資産として扱う |
| 開業後の月の家賃を前払いした分 | 入らない | 前払費用。開業後の月に地代家賃 |
10万円以上の備品を開業前に買った場合の扱いは、開業前に買ったパソコンの未償却残高の記事に計算例があります。
開業前に自宅を引っ越した場合は家事費が原則
在宅で開業する予定で、開業前に広い部屋へ引っ越したケースは迷いやすい場面です。開業前はまだ業務が始まっていないので、施行令96条の「業務の遂行上必要な部分」を区分する土台がありません。自宅の引っ越しは、開業前なら家事費として扱うのが安全側です。
新居で仕事部屋を明確に分けていて、引っ越しの目的が仕事場の確保だったことを契約時の資料で示せるなら、仕事部屋の割合を開業費として説明できる余地はあります。ただ、この扱いは条文に明記がなく税務署の判断に委ねられるので、間取り図と見積書を持って事前に確認してから決算書に載せてください。
開業費の償却:60か月均等か、任意の年にまとめて
開業費の償却費は、開業費の額を60で割り、その年に業務を行っていた月数を掛けて計算します(施行令137条1項1号)。開業した年は開業日から年末までの月数です。
もう1つ選べる方法があります。開業費については、その年の確定申告書に記載した金額を償却費にできます(同3項)。開業した年は0円にして、黒字が出た年にまとめて落とす任意償却が認められています。均等償却との違いを、開業費24万円・4月1日開業の例で並べます。
| 方法 | 開業年(4〜12月) | 翌年 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 60か月均等 | 240,000 ÷ 60 × 9 = 36,000円 | 48,000円 | 5年で平らに落ちる |
| 任意償却 | 0円〜240,000円の範囲で申告書に記載 | 残額の範囲で自由 | 黒字の年に寄せられる。青色の赤字繰越しと合わせて設計する |
開業費は決算書の「減価償却費の計算」欄に、繰延資産として1行で書きます。任意償却を選ぶ年は、償却費の欄に記載した金額がそのまま必要経費です。
開業前の引っ越しにかかった支出の行き先
- 開業前に払った引っ越しの支出
- 事務所・店舗への引っ越し費用引越し代・交通費・処分費・仲介手数料・礼金20万円未満=開業費(施行令7条1項1号)。60か月均等か任意償却
- 礼金・権利金20万円以上施行令7条1項3号ロの繰延資産。賃借期間または5年で償却(通達50-3)
- 敷金・10万円以上の備品資産の取得=開業費に入らない。敷金は差入保証金、備品は減価償却資産
- 自宅の引っ越し費用家事費が原則。仕事部屋の確保が目的なら割合を税務署へ相談
開業費に入るのは「費用」だけ。資産・前払費用・家事費は別の箱
図:開業前の引っ越しの支出は、費用なら開業費、礼金20万円以上なら別枠の繰延資産、敷金と備品は資産、自宅分は家事費に分かれる
仕訳例|引越し代の按分・礼金の繰延資産・開業費・敷金精算の4パターン
青色申告・事業用口座から支払った前提で書きます。私用の財布から払ったときは、貸方の普通預金を事業主借に置き換えてください。
仕訳例1:引越し業者代150,000円を事業用口座から支払い(自宅兼事務所・按分率20%)
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 雑費 | 30,000円 | 普通預金 | 150,000円 |
| 事業主貸 | 120,000円 |
事務所だけの移転なら、雑費150,000円/普通預金150,000円の1行です。摘要には「事務所移転・○○運輸」のように、移転の事実がわかる言葉を残します。
仕訳例2:礼金300,000円を事業用口座から支払い(自宅兼・按分率20%・2年契約・9月1日)
支払時は、事業分だけを繰延資産に載せます。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 長期前払費用 | 60,000円 | 普通預金 | 300,000円 |
| 事業主貸 | 240,000円 |
年末の償却(60,000 ÷ 24か月 × 4か月)は次の1行です。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 繰延資産償却費 | 10,000円 | 長期前払費用 | 10,000円 |
礼金の全額を繰延資産に載せて、償却のたびに按分する方法でも結果は同じです。どちらかに決めて、更新料も同じ方法で処理します。
仕訳例3:開業前に払った事務所の引っ越し費用240,000円(4月1日開業・私費で支払い)
開業日に、開業前の支出をまとめて開業費に載せます。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 開業費 | 240,000円 | 事業主借 | 240,000円 |
年末の償却は、60か月均等なら 240,000 ÷ 60 × 9か月 = 36,000円です。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 開業費償却 | 36,000円 | 開業費 | 36,000円 |
任意償却で開業年を0円にするなら、この仕訳を入れずに残高240,000円を翌年へ持ち越します。
仕訳例4:退去時に敷金200,000円から原状回復費80,000円が差し引かれ、120,000円が返金(自宅兼・按分率20%)
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 普通預金 | 120,000円 | 差入保証金 | 200,000円 |
| 修繕費 | 16,000円 | ||
| 事業主貸 | 64,000円 |
原状回復費80,000円のうち事業分の20%が修繕費、残りが事業主貸です。契約時に敷金の全額を差入保証金に載せていた前提なので、事業分だけ載せていた場合は貸方の差入保証金を40,000円に読み替えます。
引越し代の按分、礼金の繰延資産と年末の償却、開業費の任意償却、敷金精算の4本は、支払いを登録して事業割合を選ぶだけで自動で仕訳になります。固定資産台帳に礼金と開業費を登録しておけば、決算書の「減価償却費の計算」欄への転記も自動です。個人事業主向けのプランを30日間試せます。
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引っ越し後の税務署への届出|納税地の異動は確定申告書で足りる・事務所移転は開業届の様式
引っ越し後に税務署へ出す書類は、住所だけが変わった人なら原則ゼロです。2023年1月1日以後、納税地の異動に関する届出書は提出が不要になり、確定申告書に新しい納税地を書けば変更されます。事務所を移した人と、従業員に給与を払っている人だけ、届出が残ります。
場面別の届出一覧(2026年9月時点)
| 場面 | 出す書類 | 期限・提出先 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 住所(納税地)が変わった | なし。確定申告書に異動後の納税地を記載 | 次の確定申告で | 国税庁 A1-6・令和4年度税制改正 |
| 年の途中で税務署からの文書の送付先を変えたい | 所得税・消費税の納税地の異動又は変更に関する申出書(任意) | 随時・異動後の納税地の税務署 | A1-6・No.2091 |
| 事務所・店舗を新設・移転・廃止した | 個人事業の開業・廃業等届出書(移転の欄) | その年分の確定申告期限まで・納税地の税務署 | 所得税法229条・A1-5 |
| 従業員に給与を払っている | 給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書 | 移転の日から1か月以内 | No.2091 |
| 振替納税を使っている | なし(口座を変えるときだけ依頼書) | 管轄が変わっても継続 | No.2091 |
| 個人事業税・年金・労働保険 | 都道府県税事務所・年金事務所・労働基準監督署への届出が必要な場合あり | 各機関へ確認 | No.2091 |
納税地の異動届が不要になった経緯
2022年までは、転居で納税地が変わるたびに「納税地の異動に関する届出書」を異動前の税務署へ出す決まりでした。令和4年度税制改正で、異動後の納税地は提出された確定申告書から把握できるとして、2023年1月1日以後は異動と変更の届出書がどちらも不要になりました(国税庁「納税地の特例等に関する手続の変更について」令和4年12月)。
代わりに残ったのが「申出書」です。年の途中で引っ越し、税務署からの文書を新住所で受け取りたいときに出せます(国税庁 A1-6)。文書は原則として納税地宛てに送られるので、出さないと予定納税の通知や申告のお知らせが旧住所へ届き、到着が遅れることがあります。
事務所の移転は開業届と同じ様式で出す
事務所・事業所を移転した場合は、事業を開始したときと同じ「個人事業の開業・廃業等届出書」を使います。様式に新設・増設・移転・廃止の欄があり、提出時期はその事実があった日の属する年分の確定申告期限までです(所得税法第229条・国税庁 A1-5)。
提出先は納税地の税務署です。移転前の事務所の所在地を納税地にしていた人だけ、移転前の所轄税務署に出す決まりです。移転先の事務所の所在地が納税地と違っても、移転先の税務署への提出は不要とA1-5に書かれています。様式の書き方は開業届の書き方の記事が使えます。
従業員やアルバイトに給与を払っている人は、給与支払事務所の移転届が別に必要で、こちらは移転の日から1か月以内です(No.2091)。期限が短いので、引っ越しの当月に出してしまうのが楽です。
確定申告書の提出先は「提出するときの納税地」
引っ越しをまたいだ年の確定申告書は、提出するときの納税地の税務署に出します。納税地は原則として住所地です(所得税法15条)。自宅と別に事務所を持つ人は、事務所の所在地を納税地に選ぶこともでき、その場合も申告書に事務所の所在地を書けば変更されます(所得税法16条2項・A1-6)。
e-Taxで出す人は、確定申告書等作成コーナーで新住所を入力すれば提出先が自動で切り替わります。青色申告の承認を取り直す必要はなく、国税庁の届出一覧(No.2091)にも承認申請書の再提出は載っていません。
引っ越し後に税務署へ出す書類は「何が変わったか」で決まる
- 届出書
- 不要(2023年1月1日以後)
- やること
- 確定申告書に新住所を記載
- 任意
- 文書の送付先を変えたいなら申出書
- 振替納税
- 手続なしで継続
- 届出書
- 開業・廃業等届出書(移転の欄)
- 期限
- その年分の確定申告期限まで(所法229条)
- 従業員あり
- 給与支払事務所の移転届を1か月以内
- 提出先
- 納税地の税務署(移転前事務所を納税地にしていた人はその所轄)
住所だけの人は申告書1枚で終わる。事務所を動かした人だけ様式が要る
図:引っ越し後の届出は、納税地だけが変わった人は確定申告書への記載で足り、事務所を移転した人は開業・廃業等届出書と給与支払事務所の移転届が要る
よくある質問
Q1. 個人事業主の引っ越し代は経費になりますか?
事務所や店舗を移す引っ越しなら全額が必要経費です。自宅兼事務所の引っ越しは、家賃と同じ按分率を掛けた分だけが経費になります(所得税法45条・施行令96条)。自宅だけの引っ越しは家事費なので、事業用口座から払っても事業主貸で処理します。
Q2. 自宅兼事務所の引っ越し費用は何割まで経費にできますか?
家賃の按分に使っている割合と同じです。仕事部屋が床面積の20%なら、引越し業者代の20%を経費にします。50%以下でも、必要な部分を明らかに区分できれば必要経費に算入して差し支えないと通達45-2にあるので、割合が低いこと自体は問題になりません。間取り図と見積書を保存しておきます。
Q3. 引っ越しの初期費用(敷金・礼金・仲介手数料)はどこまで経費になりますか?
仲介手数料は支払った年の経費です(通達2-27注)。礼金は20万円未満なら支払った年の経費、20万円以上なら繰延資産として賃借期間または5年で償却します(施行令139条の2・7条・通達50-3)。敷金は返ってくる預け金なので経費になりません。自宅兼事務所なら、それぞれに按分率を掛けます。
Q4. 開業前の引っ越し費用は開業費にできますか?
事務所や店舗を借りて移った引っ越し代・交通費・処分費は開業費にできます(施行令7条1項1号)。開業後に60か月で均等に償却するか、確定申告書に記載した金額を任意に償却できます(施行令137条)。敷金と10万円以上の備品は資産なので開業費に入りません。開業前に自宅を引っ越した費用は家事費が原則で、仕事部屋の確保が目的だったと示せる場合だけ、割合を税務署に相談する余地があります。
Q5. 引っ越したら税務署に何を出せばいいですか?納税地の異動届は必要ですか?
住所が変わっただけなら届出書は不要で、確定申告書に新しい納税地を書けば変更されます(2023年1月1日以後・国税庁A1-6)。年の途中で文書の送付先を変えたいときだけ、申出書を任意で出せます。事務所を移転した人は個人事業の開業・廃業等届出書をその年分の確定申告期限までに、従業員に給与を払っている人は給与支払事務所等の移転届を1か月以内に出します(No.2091)。
Q6. 引越し業者代の勘定科目は何にすればいいですか?
決まりはありません。雑費か荷造運賃を使う人が多く、決算書の空欄に「引越費用」という科目を作る方法もあります。一度決めた科目を毎年同じにして、摘要に移転の事実と業者名を書き、見積書を保存しておけば説明に困りません。
まとめ|個人事業主の引っ越し費用は「どこを移したか」で範囲が決まり、礼金と開業前だけ年をまたぐ
個人事業主の引っ越し費用は、事務所だけなら全額、自宅兼なら按分、自宅だけなら家事費という3つの線引きで大半が片づきます。年をまたいで処理するのは、20万円以上の礼金と開業前の事務所の引っ越しの2つだけです。
この記事のまとめ
- 事務所・店舗だけの移転は全額が必要経費。自宅だけの引っ越しは家事費(所得税法37条・45条)
- 自宅兼事務所は家賃と同じ按分率。50%以下でも明らかに区分できれば経費(施行令96条・通達45-2)
- 引越し業者代は雑費、原状回復は修繕費、二重家賃は地代家賃、仲介手数料は支払手数料。敷金は資産
- 礼金は20万円未満で支払年の経費、20万円以上で繰延資産。償却期間は5年か賃借期間、支出年は月割り(施行令137条・139条の2・通達50-3)
- 開業前の事務所の引っ越しは開業費。60か月均等か任意償却(施行令7条1項1号・137条)。自宅の引っ越しは家事費が原則
- 納税地の異動届は不要(2023年1月1日以後)。事務所移転は開業・廃業等届出書を確定申告期限までに、給与支払事務所の移転届は1か月以内
引っ越しの領収書は、費目ごとに科目を決めて按分率を掛けるだけで判定が終わります。礼金と開業費は固定資産台帳に登録しておけば、翌年以降の償却を計算し直す手間がありません。
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免責事項
※本記事は2026年9月時点の公開情報・国税庁の公式資料をもとにした整理です。筆者は税理士ではなく、フリーランスとして自分の申告を行ってきた一当事者です。引っ越し費用の経費性・家事按分の割合・礼金や敷金の取り扱い・開業費の範囲・届出の要否は、契約内容や事業内容、改正により異なります。個別の税務判断は所轄の税務署または税理士など有資格者へご確認ください。

