事業主貸は経費ではないので、確定申告で所得を減らす科目ではありません。青色申告決算書の貸借対照表(4ページ目)の資産の部に、12月31日の残高だけを書きます。翌年1月1日には事業主借・所得と一緒に元入金へまとめられ、残高は0から始まります。
この記事でわかること
- 事業主貸・事業主借が確定申告のどこに出てくるか(青色・白色別)
- 申告の前に事業主貸の中身を点検する手順
- 源泉徴収税額・国保・国民年金を事業主貸にする理由と、申告書で取り戻す場所
- 翌年1月1日の元入金の計算(国税庁の手引きの式)
- 残高が合わない・元入金がマイナスになるときの見直し方
公的情報源: 国税庁 令和7年分 青色申告決算書(一般用)の書き方/国税庁 令和6年分 青色申告者のための貸借対照表作成の手引き/国税庁 令和7年分 確定申告の手引き(2026年10月閲覧)
この記事の要点
- 事業主貸=事業のお金から私的に出した支出。生活費・所得税・住民税・家事消費など
- 確定申告では、青色申告決算書4ページ目の資産の部・期末の欄だけに書く。経費は減らない
- 源泉徴収税額は事業主貸、取り戻すのは確定申告書第二表。国保・年金は所得控除で引く
- 翌期首の元入金=元入金+控除前所得+事業主借−事業主貸。期首資産−期首負債と一致する
- 白色申告の収支内訳書には貸借対照表がないので、事業主貸は申告書類に出てこない
事業主貸は確定申告のどこに書く?
事業主貸とは、事業用の口座や現金から、事業と関係ない支出をしたときに使う科目です。国税庁の書き方では、生活費などの家事上の費用、所得税・住民税など必要経費にならない税金、商品の家事消費などを本年中に事業から支出した合計と説明しています(令和7年分 青色申告決算書(一般用)の書き方)。
事業主貸は損益計算書に載らないので、いくら大きくても所得は1円も変わりません。確定申告の書類で事業主貸が出てくるのは、青色申告決算書の4ページ目、貸借対照表だけです。
事業主貸・事業主借が出てくる場所(2026年10月時点の様式)
| 申告の種類 | 事業主貸 | 事業主借 | 元入金 |
|---|---|---|---|
| 青色申告(65万円・55万円控除) | 決算書4ページ目・資産の部の期末欄 | 決算書4ページ目・負債・資本の部の期末欄 | 期首・期末に同じ金額 |
| 青色申告(10万円控除・貸借対照表なし) | 申告書類には出ない(帳簿のみ) | 同左 | 同左 |
| 白色申告(収支内訳書) | 申告書類には出ない(帳簿のみ) | 同左 | 同左 |
65万円・55万円の控除は、貸借対照表を添付することが要件の一つです。要件の全体は65万円控除の条件にまとめています。
期首の欄が空欄になる理由
4ページ目の事業主貸と事業主借は、期首(1月1日)の欄に何も書きません。前年の残高は、1月1日に元入金へまとめられているからです。手引きでも、元入金は期首と期末に同じ金額を書くとされています。
確定申告の前に事業主貸を点検する手順
事業主貸の残高は、所得には影響しません。それでも点検するのは、経費に紛れた私的な支出や、事業主貸に入れたままの経費が見つかる場所だからです。どちらも所得の金額がずれる原因になります。
申告前に事業主貸・事業主借を点検する順番
- 12月分まで記帳が終わり、口座・カードの残高が帳簿と合っている
- 手順1事業主貸の明細を出す会計ソフトの総勘定元帳か、科目別の一覧で1年分を並べる
- 手順2経費の取引が混ざっていないか取引先との打合せ代や書籍代が事業主貸のままなら、経費の科目へ直す
- 手順3家事分の振替が済んでいるか按分する家賃・光熱費・通信費の私用分を、年末に事業主貸へ振り替える
- 手順4控除で取り戻す支出を拾う源泉徴収税額・国保・国民年金・共済・ふるさと納税を申告書に写す
- 手順5事業主借も同じように見る私的なお金で払った経費が入っているか。利息の入金も事業主借
事業主貸の残高そのものに正解はない。中身が私的な支出だけになっていれば点検は終わり
図:事業主貸の点検は、経費の漏れと家事分の混入を探す作業
事業主貸に入るもの・入らないもの
| 支出 | 正しい科目 | 確定申告での扱い |
|---|---|---|
| 生活費として口座から引き出した現金 | 事業主貸 | 申告書類には出ない |
| 所得税・復興特別所得税・住民税の納付 | 事業主貸 | 必要経費にならない(決算書の書き方) |
| 報酬から源泉徴収された所得税 | 事業主貸 | 確定申告書第二表の「所得の内訳」に書いて差し引く |
| 国民健康保険料・国民年金保険料 | 事業主貸 | 社会保険料控除として第一表で差し引く |
| 小規模企業共済・iDeCoの掛金 | 事業主貸 | 小規模企業共済等掛金控除 |
| ふるさと納税 | 事業主貸 | 寄附金控除 |
| 家賃・光熱費の私用分(按分の残り) | 事業主貸 | 申告書類には出ない |
| 事業用の固定資産税・事業税 | 租税公課(経費) | 損益計算書の租税公課 |
| 仕事の書籍・取引先との打合せ代 | 新聞図書費・会議費など(経費) | 損益計算書 |
事業税と事業用の固定資産税は経費になるので、事業主貸ではありません。所得税・住民税は経費にならない税金で、ここを取り違えると所得が小さく出ます。経費になる税金の線引きは、個人事業主の経費一覧の租税公課の項が早道です。
家事分の振替は年末にまとめてよい
家賃や電気代を事業用口座から全額払っている人は、払うたびに経費として記帳し、年末に私用分を事業主貸へ移す方法が使えます。家賃が年120万円で事業分30%なら、移すのは残りの84万円です。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 事業主貸 | 840,000円 | 地代家賃 | 840,000円 |
按分の割合の決め方は自宅家賃の按分の記事、スマホ代はスマホ代の経費の記事にまとめています。
源泉徴収税額や国保を事業主貸にしたら、申告書のどこで取り戻す?
事業主貸に入れた支出の一部は、所得からではなく、確定申告書の別の場所で税金を減らします。事業主貸にしたから損をするわけではありません。取り戻す場所が経費の欄でないだけです。
報酬から源泉徴収された所得税
報酬11万円(税込)から10.21%が引かれ、98,769円が入金されたとします。売上は11万円で記帳し、差額の11,231円は事業主貸にします。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 普通預金 | 98,769円 | 売上高 | 110,000円 |
| 事業主貸 | 11,231円 |
源泉徴収された所得税は、本人が前払いした所得税です。確定申告書第二表の「所得の内訳(所得税及び復興特別所得税の源泉徴収税額)」欄に、支払者ごとに書きます(令和7年分 確定申告の手引き)。その合計が、納める税金から差し引かれます。
国保・国民年金・共済・ふるさと納税
国民健康保険料や国民年金保険料は、事業の経費ではなく本人の社会保険料です。事業用口座から払ったら事業主貸にして、支払額は確定申告書の社会保険料控除の欄へ。小規模企業共済やiDeCoの掛金、ふるさと納税の寄附も同じ考え方で、それぞれ所得控除の欄で差し引きます。
保険料の科目の分け方は保険料は経費になるか、ふるさと納税の申告はふるさと納税の確定申告のやり方のページです。
事業主貸にした支出を取り戻す場所
- 事業主貸に入れた支出(所得は減らない)
- 報酬から源泉徴収された所得税確定申告書第二表の所得の内訳に書き、納める税金から差し引く
- 国民健康保険料・国民年金保険料社会保険料控除として第一表で差し引く
- 小規模企業共済・iDeCoの掛金小規模企業共済等掛金控除で差し引く
- ふるさと納税寄附金控除で差し引く
- 所得税・住民税の納付必要経費にならない税金(決算書の書き方)
- 生活費・家賃などの私用分申告書類には出ない
図:経費の欄ではなく、所得控除と源泉徴収税額の欄で取り戻す
翌年1月1日の元入金の計算|国税庁の手引きの式
12月31日の事業主貸・事業主借・青色申告特別控除前の所得は、翌年1月1日に元入金へまとめます。国税庁の手引きは、翌期首の元入金を次の形で示しています(令和6年分 青色申告者のための貸借対照表作成の手引き p13)。
- 翌期首の元入金=期首の元入金+青色申告特別控除前の所得金額+事業主借−事業主貸
- 翌期首の元入金は、翌年の期首の資産総額から期首の負債総額を差し引いた額とも一致する
青色申告特別控除の65万円は、帳簿上の取引ではないので、元入金の計算には入れません。使うのは控除前の所得金額です。
計算例:2026年12月31日の残高から2027年1月1日の元入金を出す
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 2026年の元入金(期首=期末) | 1,500,000円 |
| 青色申告特別控除前の所得金額 | +3,200,000円 |
| 事業主借(期末) | +180,000円 |
| 事業主貸(期末) | −2,900,000円 |
| 2027年1月1日の元入金 | =1,980,000円 |
2027年の帳簿は、元入金1,980,000円、事業主貸0円、事業主借0円で始まります。会計ソフトでは、年度の繰越処理をするとこの計算が自動で入ります。
12月31日→1月1日で残高がどう動くか
- 元入金
- 1,500,000円
- 控除前所得
- 3,200,000円
- 事業主借
- 180,000円
- 事業主貸
- 2,900,000円
- 元入金
- 1,980,000円
- 事業主借
- 0円から記帳
- 事業主貸
- 0円から記帳
- 検算
- 期首の資産−期首の負債=1,980,000円
事業主貸・事業主借・所得は1月1日に元入金へ吸収される。期首の欄が空欄になるのはこのため
図:翌期首の元入金=元入金+控除前所得+事業主借−事業主貸
開業した年と、白色申告から青色申告に変わった年は、前年の元入金がありません。この年の期首元入金は、期首の現金・預金・減価償却資産の未償却残高などの資産の合計になると、同じ手引きの注記にあります。
残高が合わない・元入金がマイナスのときの見直し
貸借対照表の資産の合計と、負債・資本の合計が合わないときは、事業主貸か事業主借の記帳漏れがよくある原因です。手引きでも、損益計算書と貸借対照表の控除前所得が一致しないときは、記帳漏れや二重記帳、転記誤りを確認するよう書かれています(令和7年分 決算書の書き方 p6)。
合わないときに確かめる箇所
| 症状 | よくある原因 | 直し方 |
|---|---|---|
| 現金の帳簿残高が手元と合わない | 生活費に使った現金を記帳していない | 事業主貸で記帳する |
| 預金の帳簿残高が通帳と合わない | 個人の財布から入金した分・利息の記帳漏れ | 事業主借で記帳する |
| 1月1日の期首残高が前年末と合わない | 前年末の事業主貸・借・所得が元入金に移っている | 合わないのが正常。期首資産−期首負債で元入金を検算する |
| 元入金がマイナスになった | 生活費の引出しが所得と事業主借の合計を上回った | 誤りではない。事業資金を個人のお金で補う年に事業主借で受け入れる |
元入金はマイナスになることがあり、それ自体は申告の誤りではありません。ただ、マイナスが毎年大きくなるなら、事業用の口座から生活費を出しすぎていると読めます。口座とカードを事業用と私用で分けるのが、事業主貸の取引そのものを減らす近道です。
複式簿記の付け方の全体は正規の簿記の原則で説明しています。
よくある質問
Q1. 事業主貸は確定申告で経費になりますか?
なりません。事業主貸は私的な支出をまとめる科目で、損益計算書には載らず、所得も減りません。青色申告決算書の貸借対照表に期末の残高を書くだけです。
Q2. 確定申告書のどこに事業主貸を書きますか?
確定申告書(第一表・第二表)には書きません。書くのは青色申告決算書の4ページ目、貸借対照表の資産の部の期末欄です。白色申告の収支内訳書には書く欄がありません。
Q3. 源泉徴収された所得税は事業主貸でいいですか?
事業主貸で記帳するのが一般的です。源泉徴収された所得税は本人の所得税の前払いなので、経費にはなりません。確定申告書第二表の「所得の内訳」に書けば、納める税金から差し引かれます。
Q4. 事業主貸と事業主借は年末に相殺するのですか?
12月31日の貸借対照表では、事業主貸と事業主借をそれぞれの期末欄に書きます。まとめるのは翌年1月1日で、所得と一緒に元入金へ移すのが流れです。会計ソフトでは繰越処理で自動的に行われます。
Q5. 事業主貸の記帳を忘れていたらどうなりますか?
生活費の引出しを記帳し忘れると、帳簿の現金や預金の残高が実際と合わなくなります。所得の金額は変わらず、貸借対照表の資産だけが実際より多い状態です。申告前に通帳と帳簿の残高を照らして、漏れた分を事業主貸で記帳してください。
Q6. 元入金の計算に青色申告特別控除の65万円は入れますか?
入れません。国税庁の手引きの式は、損益計算書の「青色申告特別控除前の所得金額」を使います。控除は税金の計算上の差し引きで、帳簿のお金の動きではないからです。
まとめ
事業主貸は所得を動かさない科目ですが、申告前に中身を見ると、経費の漏れや家事分の混入が見つかります。
この記事のまとめ
- 事業主貸は経費ではない。青色申告決算書4ページ目の資産の部・期末欄だけに書く
- 白色申告・10万円控除では申告書類に出てこない
- 源泉徴収税額は第二表、国保・年金・共済・ふるさと納税は所得控除で取り戻す
- 家事分は年末にまとめて事業主貸へ振り替えてよい
- 翌期首の元入金=元入金+控除前所得+事業主借−事業主貸
- 元入金のマイナスは誤りではない。残高が合わないときは記帳漏れを探す
免責事項
※本記事は2026年10月時点の国税庁の公開資料をもとにした整理です。計算例・仕訳例の数字は説明用です。科目の使い方は会計ソフトや記帳方法によって異なる場合があります。筆者は税理士ではなく、フリーランスとして自分の申告を行ってきた一当事者です。個別の税務判断は所轄の税務署または税理士など有資格者へご確認ください。

